98号 ≪ポンジースキーム(詐欺商法)にご注意を≫
ポンジースキームという言葉をご存知ですか。この言葉をご存じなくとも、豊田商事事件とか安愚楽牧場事件と聞けば、「あー、あのインチキ商法か」と思いだされるかもしれません。これはイギリスのチャールズ・ポンジー(Charles Ponzi)という詐欺師に由来する言葉です。
投資家から出資を募って、その資金を運用して得た利益を配当するという触れ込みですが、実際は運用せず、後から参加した人の出資金を以前に出資した人への配当金に充てるという詐欺商法です。言ってみれば自転車操業のような仕組みです。
自分はそんなものに引っかかる筈がない、と思われるでしょうが過去に我が国でも似たような事件がありました。そして現在も顕在化しないだけで身近にあるかもしれません。
先ずは過去の事件を見てみましょう。
例1.豊田商事事件
1980年代前半に発生した詐欺事件です。豊田商事は投資家に金の地金を売る契約をしてお金を払わせます。しかし金を渡さず、「純金ファミリー契約証券」という預かり証券を渡しただけでした。実際には豊田商事は金を購入しておらず、投資家の出資金はどこかに消えてしまいました。投資家には預かり証券なる紙切れが残ったのみです。
TVのCMを多数放映したりして信用を高めて募集を増やした結果、被害総額は2,000億円を超えると言われています。投資家には虎の子の老後資金を投入したお年寄りが多く大きな社会問題となりました。
例2.安愚楽牧場事件
このビジネスモデルでは出資者は雌の繁殖牛を購入してオーナーになります。業者は年1回繁殖牛が産んだ子牛を買取る形で配当する、契約終了時には繁殖牛を販売時と同じ価格で買い戻す、というものでした。しかし実際には契約した数に見合う繁殖牛は飼育されず、既存の出資者に対する配当は新規の出資者からの販売代金を充てるというものでした。
このような自転車操業を繰り返し2011年に経営破綻しました。負債総額は4,200億円に上ると言われています。
例3.かぼちゃの馬車事件
スマートデイズという不動産会社が1棟約1億円で若い女性向けの賃貸用シェアハウスをスルガ銀行のローンとセットで販売。35年家賃保証で高利回りを謳っていました。保証家賃の原資は①シェアハウスの賃料収入、②入居者である地方出身の女性を企業に職業紹介して得られる紹介料、としていました。
ところが、シェアハウスの立地の悪さや非常に狭い間取り等で入居率は低く、また職業紹介料も殆ど入らなかったようです。そこで下請けの建設会社から相場より高い代金で建物を仕入れ、その代金の50%をキャッシュバックさせてこれを保証家賃の原資としていました。その結果2018年3月に経営破綻。
元々不動産価値が低いうえに建物代金は建設会社のキャッシュバック分だけ相場より高くなっているため、このシェアハウスを購入した投資家はローン返済に足りる額での転売もできませんでした。結局スルガ銀行に融資の返済ができず破産に追い込まれた人も出てきました。
上記の3例の示唆すること
ポンジー、豊田商事の場合は現物まがい商法(ペーパー商法)と言われる明らかな詐欺です。しかし、安愚楽牧場、かぼちゃの馬車の場合は初めから意図されたものではなく、無理なビジネススキームを推し進めていくうちに途中から詐欺まがいの商法に切り替えざるを得なくなり、結局破綻、投資家に被害をもたらしたのではないかと思われます。
これらの例より、資産運用にあっては先ずは次の点に気をつけて頂きたいと思います。
1.いわゆる「うまい話」ではないか
世の中の金利が低い中で飛び抜けて高い利回りとか、利益保証とか、いわゆる「うまい話」は要注意です。ただし、それを勧める業者も非常に巧みなのでついついその気になってしまうようです。そのような意味では下記2以降を参考にしてください。
2.対象物の確認をする
出資や購入する現物を確認することがまず必要です。例3のかぼちゃの馬車の場合などは現地に行き、最寄駅からの距離、周囲の生活インフラの充実度、建物の中の間取り等を見れば二の足を踏んだことでしょう。
3.分配金が得られる取引実態を確認する
不動産ならば誰に貸しているのか、幾らで貸しているのか、相場に見合った賃料なのか、経費を適切に見込んでいるか等を具体的に確認してください。不明な点は資料請求してください。関係会社などに高く貸して、投資家への分配金利回りを高くしている場合などがあります。これなどは一種の自転車操業で長続きしないなので要注意です。
4.事業を行う企業の信用度をチェックする
豊田商事や安愚楽牧場の場合などは現物を確認して、金のインゴットや牛を示されてもそれを持って帰ることはできないので、本当に自分のものになったのかどうかわかりません。そこで、その企業が本当に信用できる事業をしているにかどうかをしっかり調べることが必要です。
最近はインターネットでかなり多くのことが分かるので、そのうえで更に必要な資料の開示を要求したり、その業界に詳しい第三者に相談したりするのもいいでしょう。
その際、TVCM、豪華なパンフレット、キャッシュバック等に惑わされないでください。
※特に気をつけていただきたいケース
出資金に対する利回り(利益率)が異常に高い場合
あまりにも高い場合は先ずは首をひねった方が良いと思います。
なぜ銀行の貸付金利よりも数倍から十数倍もする分配金を払ってまで出資金を集めるのか不思議です。銀行などから借入すれば、高い分配金を払う代わりにその分が自社の利益となるのですから。通常の金融機関の融資がつかないような問題のある物件や商品、事業スキーム、あるいは企業ではないかと懸念されます。非常にリスクが高いと思われます。
開発中の不動産の場合
不動産は完工して初めて売却益が得られるし、また賃貸収入が得られます。ところが開発中の物件は利を生みません。従ってこの期間に分配金があるとすれば、多くの場合その分配金には他の人からの融資か出資金が充てられています。一種の自転車操業状態です。
予定通りの工期・コストで完工するか、予定通りの金額で売却できるか、又は予定通りの賃料で賃貸できるか、ここにも大きなリスクがあります。